はじめに
自己破産を検討している方や今までに自己破産を経験された方は「自己破産をすると遺産相続はどうなるのか?遺産相続できるのだろうか?」という疑問をお持ちかと思われます。
自己破産の手続きが始まると、財産の扱いは厳密になり、自分の財産が管理されることになります。
そのため、相続の話題が出たとき、「相続財産は全部没収されてしまうのでは?」と不安に感じることが多いかと思われます。
しかし自己破産をしても、相続する権利そのものが消えるわけではありません。
一方、破産手続き中でも破産手続開始決定「前」なのか「後」なのか、「免責前なのか」「免責後なのか」、によって相続財産の扱いが大きく変わることになります。
ここでは、自己破産と遺産相続についてみていきたいと思います。
【目次】
※本文に入る前に簡単な図表に図表を載せておきますのでご参照ください。
| 自己破産の「申立て前」の相続 | 影響あり | 相続財産も破産財団に含められ換価処分される |
| 自己破産の「申立て後」「破産手続き開始決定前」の相続 | 影響あり | 同上 |
| 破産手続開始決定後の相続 | 影響なし | 新得財産となり、自分のものとなる |
| 免責決定(破産手続き終了)後の相続 | 影響なし | 破産とは関係なく自分のものとなる |
1.自己破産をしても相続の権利は消えない
自己破産をしても、相続する権利(法定相続権)は残ります。
破産はあくまで「借金に関する手続き」であり、家族(親族・相続)関係を変えるものではありません。
そのため、破産した人も相続人となり相続することができます。
ただし「相続財産として得たものが自分のものとして自由につかえるのか」「借金を返す財源に回されるのか」という点については、破産手続きの進行状況によって大きくルールが異なります。
2.自己破産の手続きの流れ
自己破産は「申立て → 破産手続開始決定 → 免責決定(破産手続き終了)」という流れで進みます。
この「申立て → 破産手続開始決定 → 免責決定(破産手続き終了)」の流れのどの時点で相続が発生したのかで結論は大きく変わることになるのです。
3.免責決定(破産手続き終了)「後」の相続はどう扱われる?
破産手続きの最終段階は「免責決定」です。
免責決定により破産手続き終了となります。
免責決定がされると借金の返済義務がなくなります。
つまり免責後(破産手続き終了後)に相続した財産は、完全にあなたのものです。
破産の影響は一切ありません。
このように第一の線引きは、前か後かによります。
相続の発生が免責決定(破産手続き終了)後であれば相続への影響は全くないということになります。
4.免責決定(破産手続き終了)「前」の相続はどう扱われる?
一方、免責決定(破産手続き終了)前に相続が発生した場合には事情が異なってきます。
この場合は、自己破産の「申立て前」「申立て後破産手続き開始決定前」「申立後破産手続き開始決定後」の各段階での検討が必要となります。
5.自己破産の「申立て前」の相続はどう扱われる?
裁判所に自己破産の申立てをする前に相続が発生した場合、相続人は相続財産を受け取ることができます。
しかし、そのあとに自己破産手続きを取ることにより、相続した財産も含めて破産財団に属することになり破産管財人の支配下になります。
そして最終的には、裁判所により換価処分されることになります。
つまり、相続はできるが自由には使えないことになります。
※破産財団とは
破産とは、破産者の財産を破産管財人に管理処分させて、その財産を換価して債権者に平等に配当するという手続きです。
破産手続きが終結すると、債権者は破産者から金銭を回収することができなくなります。
破産者自身に財産の管理を委ねてしまうと、財産の隠匿や処分をする恐れがあるため、裁判所が破産管財人を選任し、破産財産の管理処分権を委ねます。
そして、破産管財人の管理処分に属した財産を「破産財団」といいます。
つまり自分の支配から離れ、自由にでつかうことはできなくなります。
6.自己破産の「申立て後」「破産手続き開始決定前」の相続はどう扱われる?
それでは、自己破産の「申立て後」「破産手続き開始決定前」に相続が発生した場合はどうでしょうか。
この場合は自己破産の申立てをする前に相続が発生した場合と同じく、相続人は相続財産を受け取ることができます。しかし、取得した相続財産は、破産手続き開始決定前に保有して財産ということで破産財団に属することになり破産管財人の支配下になります。そして最終的には、裁判所により換価処分されることになります。つまり、この場合も相続はできるが自由には使えないことになります。
7.破産手続開始決定後の相続はどう扱われる?
自己破産の申立てても破産手続き開始決定後に相続が発生した場合には結論が逆になります。
破産手続き開始決定後に取得した財産は破産財団には組み込まれず、新得財産として手元に残すことができるのです。
つまり破産手続き開始決定後に発生した相続により取得した財産は新得財産となり、自由に使うことができることになります。
8. 相続財産を隠すと重大な違反になるかも
破産手続き中に相続が発生した場合、必ず破産管財人へ報告しなければなりません。
相続を隠すと、免責が認められなくなる(借金が帳消しにならない)、詐欺破産として刑事罰の対象になる、手続きが大幅に長引くなどの重大な問題が起こります。
破産制度は誠実な情報開示を前提としているため、財産を隠す行為は最も重い違反とされます。
また破産手続開始決定「後」に相続が発生し「新得財産」となった場合でも、破産手続きの進行状況によっては制限がかかる場合もあるため、念のため破産管財人への報告は必要です。
9.相続放棄と自己破産の関係
ここで仮に相続放棄と自己破産の関係を簡単に確認しておきたいと思います。
相続放棄と自己破産は、いずれも負債から免れるということでは似ておりますが、その仕組みや目的はまったく異なります。
相続放棄は、亡くなった方の遺産に借金が多い場合に、相続人がその負債を含めて一切の財産を引き継がないようにする手続きです。
家庭裁判所に申述し、原則として相続開始を知ってから3か月以内に行う必要があります。
一方、自己破産は、本人が抱える返済不能な借金を法的に整理し、生活再建を図るための制度です。
これは裁判所が関与した厳しい手続きの中で行われますので複雑な手続きとなります。
注意したいのは、相続した借金が原因で自己破産に至るケースがあることです。
相続放棄を早めに行えば、この事態は避けられます。
また、相続放棄は「自分の借金」を消すことはできないため、相続とは別に借金問題を抱えている場合には、自己破産などの債務整理を検討する必要があります。
状況によってどちらの制度を使うべきかは異なりますので、早めに専門家へ相談することが再出発への近道となります。
相続放棄に関連する弊所のコラムはこちらから
10.まとめ
最後に、ポイントを整理します。
・自己破産をしても相続する権利は残る
・破産手続き終了後の相続により取得した財産は破産の影響を受けない
(完全に自分の財産になる)
・破産手続開始決定前の相続により取得した財産は破産財団に属し破産管財人の支配下に移る
・相続を隠すと免責不許可や刑事罰につながることがある
・相続放棄と自己破産は個別に考える
自己破産は人生をやり直すための制度です。
そして相続は、一生のうちで数少ない重大な事項です。
この二つが重なると複雑になりますが、正しい知識とサポートがあれば極度に不安になる必要はありません。
不安を感じた場合は、ぜひ早めに専門家へ相談してください。

四年制大学の法学部在籍時に、友人と一緒に司法書士資格の勉強を始める。大学を卒業した年に見事合格を果たした後、司法書士事務所へ入所し、商業登記を中心に経験を積む。その後、30歳を迎えることを機に一般企業の法務部へ転職。10年ほど司法書士業界を離れていたが、数年前に再び司法書士業界へ。そして幅広い業務経験を積むため、2022年リーガル・フェイスへ入所する。休日は2児の父として趣味の料理を振る舞う。得意料理はグラタン、好きな食べ物はラーメンと焼肉。







