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相続人が行方不明でも相続登記はできる? ~義務化後に知っておくべき手続きと選択肢~

相続人が行方不明でも相続登記はできる? ~義務化後に知っておくべき手続きと選択肢~

こんにちは。

リーガル・フェイスです。

 

相続登記の義務化(令和6年4月1日施行)以降、相続が発生した場合は、原則として 3年以内に相続登記を行う義務が課されるようになりました。

 

しかしながら、家族関係が複雑であったり、相続人が長年連絡を絶っていたりすると、そもそも相続人全員から合意を取り付けることが困難なケースも少なくありません。

特に「相続人の一人が行方不明」という事態は、相続登記手続きの大きな障害となります。
本コラムでは、行方不明者がいる場合に相続登記をどのように進めていくのか、その方法と注意点を解説します。

 

 

1.本当に行方不明かどうかを確認する

行方不明と言っても、その範囲は様々です。

「電話番号が変わり連絡がつかない」「長年会っていない」というレベルなのか、「生死不明の状態が長期間続いている」のかによって取るべき手続きが異なります。

①住所や連絡先が不明な場合

相続人の住所や連絡先が不明な場合、まずは次のような基本的な調査を行うのが一般的です。


・戸籍の附票を取得し、最新の住所を確認する
・親族や知人に連絡を取り、所在や連絡先を聞く

 

現住所が判明した場合は、手紙を送付したり、可能であれば直接現地を訪問してみる方法もあります。

また、親戚や共通の友人・知人から連絡先を教えてもらう、あるいはSNSで名前や関連情報を検索してみる等の方法もあります。

②連絡しても反応がない場合

連絡がついたとしても、何らかの事情で返信が得られない、あるいは話し合い自体を拒否されてしまうこともあります。

このような場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるという手段が用意されています。


もっとも、いきなり調停申立てに進むよりも、まずは弁護士を代理人として内容証明郵便 を送り、協議に応じてもらえる余地があるか探る方法が有効な場合もあります。

相続は感情的な問題に発展しやすいため、相手方の状況に配慮しつつ、慎重かつ段階的に手続きを進めることがトラブル防止の観点からも望ましいと言えるでしょう。

 

2.連絡手段が一切確保できない状況にある場合

所在や連絡先が確保できない場合、主に以下の2つ方法がございます。

 

・不在者財産管理人の選任
・失踪宣告の申立て

それぞれ目的も効果も大きく異なるため、ケースに応じて選択します。

 

では、上記2つについて説明いたします。

3.不在者財産管理人の選任

行方不明者がどこで暮らしているか分からず、連絡手段もない状態の場合には、不在者財産管理人選任の申立てを行います。

この申立ては、利害関係人または検察官が家庭裁判所に対して行いますが、相続人の一部が不在者の場合には他の相続人が利害関係人に該当するのでこの申立てを行うことができます。

不在者財産管理人とは

家庭裁判所によって選任される当該財産の管理人です。

不在者財産の管理・保存をするために、相続に関しては以下のような役割を担います。

役割

行方不明相続人に代わって家庭裁判所の許可を得て、遺産分割協議に参加

 

手続きの流れ

 

【ステップ1】家庭裁判所に申立て

【ステップ2】裁判所による審理手続き
不在者の所在調査のための調査嘱託、書面照会、審問等

【ステップ3】不在者財産管理人選任の審判

【ステップ4】 不在者財産管理人による調査
不在者財産の調査・財産目録の作成等

【ステップ5】 家庭裁判所の許可の申立て(遺産分割協議について)
行方不明者にとって不利益になりすぎる協議内容でないか審査
※行方不明者の取得分が法定相続分よりも少ない場合には家庭裁判所が許可しない可能性があります。

【ステップ6】遺産分割協議の成立

【ステップ7】相続登記

 

 

メリットとデメリット

【メリット】

行方不明者を待たずに協議ができる。

失踪宣告より短期間で進む。

 

【デメリット】

管理人の報酬が必要。

家庭裁判所の許可が必要なため手続きは増える。

4.失踪宣告

行方不明期間が極めて長く、生死不明といえる場合には失踪宣告が検討されます。

普通失踪と特別失踪

普通失踪:7年間生死不明
特別失踪:戦争・災害などの危難に遭遇し、1年間生死不明


家庭裁判所が失踪宣告を出すと、行方不明者は死亡したものとみなされ、残りの相続人のみで遺産分割協議を行い、相続手続きを進めていくことになります。

メリットとデメリット

【メリット】

死亡扱いとなるため、相続が確定し協議が明確になる。


【デメリット】

期間要件(7年以上経過)が厳しい。

失踪宣告後に帰ってきた場合、相続財産の返還義務が生じることがある。

5.どちらの方法を選ぶべきか

行方不明者が「最近連絡が取れない程度」であれば、まずは不在者財産管理人の選任を考えるのが通常です。

 

一方、連絡が10年以上取れず、周囲の証言からも生死不明であることが濃厚な場合は失踪宣告を検討することもあります。
ただし、どちらの手続きも専門的であり、家庭裁判所とのやりとりが必要なため、専門家に相談して進めるのが確実でしょう。

6.相続登記義務化後で注意すべきこと

相続登記の義務化以降、相続発生がわかった日から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました。

正当な理由なくこの義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。
行方不明者がいるからといって手続きを放置すると 罰則の対象(過料) になる可能性があります。

 

ただし、家庭裁判所への申立ての準備中であるなど、正当な理由があれば過料は免れますが、もしご心配であれば相続人申告登記をご検討ください。
相続人申告登記の詳しい内容については、こちらのコラムをご参照ください。

7.相続人が行方不明でも相続登記ができるケース

①遺言書がある場合の相続登記

被相続人が生前に 有効な遺言書を残していた場合、行方不明者の同意は不要です。
遺言は遺産分配に関する被相続人本人の最終意思であり、法的拘束力を持つため、原則として遺言書どおりに相続登記をすることができます。

 

たとえば不動産を長男に相続させるという遺言書があれば、他の相続人が行方不明であっても長男単独で登記申請が可能です。
このように、行方不明者の影響を受けずに登記ができるという点で、遺言書の存在は非常に重要です。

②法定相続の割合どおりに相続登記する場合

行方不明者がいて遺産分割協議ができなくても、法定相続分どおりに共有名義で相続登記を行うことは可能です。

たとえば、相続人が配偶者と子2人で、そのうち1人が行方不明だとしても、


配偶者:1/2
子:1/4
行方不明の子:1/4


という割合のまま、共有名義で登記するだけであれば行方不明者の署名押印は不要です。
法律で自動的に決まる相続分に従った「保存行為」であり、相続人の合意を要しないからです。


ただし、行方不明者名義の持分はそのまま残るため、将来的に売却等の処分行為をすることができず、問題を先送りにするだけですので、あまりお勧めできません。

8.まとめ

行方不明者がいる相続では、状況に応じて選択すべき手続きや進め方が異なるため、適切な判断が求められます。

遺言の有無や登記方法によっては、行方不明者がいても相続登記を行えるケースもあり、事案ごとに慎重な検討が必要です。

 

当事務所では、相続関係の確認から相続登記の実施、さらに将来のトラブル防止に向けた遺言書作成等の生前対策にも対応しております。

生前・相続に関するお悩みがございましたら、ぜひご相談ください。

 

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