こんにちは。
司法書士法人リーガル・フェイス北です。
「相続のこと、そろそろ考えなきゃ」と思いながらも、「うちはまだ先のこと」「家族で揉めるはずがない」と、ついつい検討すること自体を先送りにしていないでしょうか。
事前の対策をしていなかったばかりに、それまで仲の良かったお子様たちの関係がこじれてしまうという、悲しい現実も起きる可能性があるのです。
本コラムでは、相続紛争の防止策を詳しくお伝えいたします。
目次
【後編※こちらは別コラムにてご紹介】
3.遺言書がない場合の相続とは~「法定相続」と「遺産分割」の限界~
4.トラブル防止策として~「公正証書遺言」活用方法~
5.知っておくべき「遺留分」と「遺言執行者」の基礎知識
6.遺言を遺す際の意思能力の問題
7.他士業との連携の必要性~「ワンストップ相続」のメリット~
8.まとめ:今できる相続対策
1.「うちは揉めるほど財産がない」という安心が、一番危ない。
「相続税がかからないなら、揉めることもないだろう」 実は、この考え方が一番危険です。
最高裁判所の司法統計(令和4年度)によると、遺産分割で揉めて調停になったケースのうち、遺産額が5,000万円以下の割合が全体の約75%以上を占めています。さらに、1,000万円以下のケースだけでも約33%にのぼります。
なぜ、いわゆる普通の家庭が揉めるのか。それは、「遺産のほとんどが自宅(不動産)で、金融資産が少ないため、遺産を平等に分けられないから」ということが大きな原因となっているようです。
1億円の預金があれば、子供二人で5,000万円ずつ分けるのは簡単です。しかし、2,000万円の価値がある家が一つだけの場合、それを二人でどう分けるのか。この1円単位で分けられない資産が、争いの火種になってしまうのです。
2.相続トラブルとなり得る事例
本項では、トラブルとなり得る事例をご紹介いたします。本記事を参考にしていただくことで、ご自身のご家庭に潜むリスクが見えてくるかもしれません。
ケース①:不動産をめぐる「住む人」と「金銭が欲しい人」の対立
お父様が亡くなり、遺産は「実家(評価額2,500万円)」と「預貯金1,500万円」の総額4,000万円だったとしましょう。長男は実家でお父様と同居していましたが、次男は都内でマンションを購入したばかりというケースです。
◆相続人:長男と次男
◆法定相続分は1/2ずつ(それぞれ2,000万円)

●長男の主張: 「私はこの家に住み続けて家を守る。弟には預貯金の半分である750万円を相続させるので、家は諦めてほしい。」
●次男の主張: 「750万円では、法律上の自分の取り分2分の1(2,000万円)には足りない。家を売ってその売買代金を分けるか、長男が家をもらうなら差額の1,250万円(2000万円-750万円)を私に払ってほしい。」
上記のように相続人同士の話し合いが平行線になることも考えられるでしょう。
もし、遺言がないと、二男の主張している「法定相続分」が壁になってしまいます。
遺言書がない場合は、次男が「法律通り半分(2,000万円)ほしい」と主張すると、相続財産である預貯金1,500万円にプラスして、長男が自分の預貯金から500万円を上乗せして弟に支払えない限り、家を売るしかなくなってしまいます。
もし、お父様が「自宅は長男に、預貯金1,500万円は次男に相続させる」のような遺言書を遺していた場合はどうでしょうか。
長男は、次男の同意がなくても名義変更が可能となります。遺言書があれば、長男は次男と話し合うことなく、単独で実家の名義を自分に変えることができます。
このように、十分な預貯金がある場合でも、遺言書がないだけで相続人一人からの「きっちり半分に分けたい」という主張によって実家を失うリスクが生じます。
※なお、遺言の中身については、遺留分の検討も必要です。遺留分については、後編でもご説明していますが、下記コラムもぜひご確認ください。
ケース②:介護をした・しないで揉める「寄与分」の争い
長女が10年間、家庭を犠牲にしてお父様の介護を献身的に行いました。一方、長男はほとんど実家に寄り付きませんでした。

●長女の主張: 「私は自分の時間を犠牲にしてお父さんを支えた。その分、多くもらう権利があるはず。(寄与分)」
●長男の主張: 「介護は子供の義務だ、姉はそれをしたまでだ。相続は、法律通り半分ずつ分けるのが公平だ。」
寄与分が裁判で認められるハードルは非常に高く、単なる身の回りの世話程度では、相続分が増えることは稀です(詳しくは弁護士に相談が必要でしょう)。長女の苦労を一番知っていたお父様が、感謝の気持ちを込めて長女に多めに相続させる(遺言書はもちろん具体的に記載しましょう)というような遺言を遺しておくべきケースといえるでしょう。
ケース③:自筆証書遺言の記載ミスで手続きがストップ
「全財産を妻に相続させる」という丁寧な手書きの遺言。遺言を遺された背景には、ご自身が亡くなった後、奥様とご自身の兄弟(相続人)が遺産分割協議で負担を感じないように、という想いがありました。氏名の自署も捺印も問題ありませんでしたが、唯一日付の書き方が問題となりました。

●ミスの内容: 日付を「令和〇年〇月吉日」と書いてしまった。
実務上、非常に不安定な状態になります。
自筆証書遺言において、日付は「〇年〇月〇日」と特定する必要があります。「吉日」では日が特定できないため、裁判実務では原則として法律上の効力が認められない(無効)と判断される可能性が極めて高いのです。
「死因贈与」として救済される可能性は?
「遺言としては無効でも、贈与の『契約』として認められないか?」というご質問をいただくことがあります。しかし、死因贈与はあくまであげる人と、もらう人の合意が必要です。遺言書が遺言者の一方的な意思表示とみなされる場合、後から死因贈与として成立させるのはハードルが高く、他の親族から争われれば、裁判で決着をつけることになりかねません。
銀行や法務局の判断は?
実際には、法務局の登記や銀行の手続きにおいて、「吉日」と書かれた遺言書がそのまま受理されるケースが絶対にないとは言い切れません。しかし、専門家としては決してお勧めできません。 もし窓口で「日付が特定できないので受け付けられません。」と拒否されてしまえば、そこで相続事務がストップしてしまうのです。結局、奥様は他の親族(兄弟など)に連絡を取り、協議書を締結し、実印と印鑑証明書をもらうために、多大な時間と精神的な負担を負うことになります。
確実な「安心」を届けるために
せっかくの想いが、たった数文字の書き方で使えるか使えないか分からない不安定な書類になってしまうのは、あまりにももったいないことです。 「この遺言書で本当に大丈夫かな?」という不安を、残された奥様に背負わせないためにも、最初から専門家のチェックを受けるか、より確実な公正証書遺言を選択することを検討していただきたいのです。
ケース④:「借金」も相続されるなんて
亡くなった叔父さんに身寄りがなかったため、甥のAさんが相続人になりました。預金が300万円あったので相続手続きを進めましたが、半年後、消費者金融から「500万円の借金があります」という通知が届きました。

マイナスの財産に関するルールの原則と例外
相続は、預貯金や不動産といったプラスの資産だけでなく、借金や未払金などの負債もすべて引き継ぐのが原則です。 法律上、自分のために相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内(熟慮期間)に相続放棄の手続きをしない場合、あるいは遺産の一部を解約・使用してしまった場合には、原則としてすべての債務を引き継ぐことになります(単純承認)。
知らなかった借金が見つかった場合
もっとも、実務上は3ヶ月を過ぎたら一切の救済がないわけではありません。借金の存在を全く知らず、そう信じることに相当な理由がある場合などは、借金の存在を知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄が認められるケースもあります。
ただし、この相当な理由を裁判所に認めてもらうための手続きには、状況の精査と、的確な主張をまとめた説明書類の提出が求められます。
迅速な「財産調査」の重要性
こうした事態を未然に防ぐには、相続開始直後に、借金の有無を含めた財産調査を徹底することが重要です。
最後に
今回は、前編として相続トラブルになりやすい事例や注意点についてご紹介いたしました。
後編は、円滑な相続を実現するためのさらなる具体的な対策についてお伝えいたします。ぜひご覧ください!

千葉県勝浦市生まれ、東京育ち。平成17年に司法書士試験合格。不動産会社・金融関係の企業勤務を経て、相続関連の業務に携わりたいという想いから司法書士法人リーガル・フェイスに入社。主な資格は司法書士、宅地建物取引主任者、貸金業務取扱主任者。趣味は自宅で行うヨガ。好きな食べ物はリーフパイ、お好み焼き、酢めし、磯辺焼きなど。







