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【遺留分を侵害されたら】(民法第1046条)

【遺留分を侵害されたら】(民法第1046条)

こんにちは。相続課の栗田です。
今回は、遺言等によって一定の法定相続人が受け取れる「最低限の遺産割合として定められた遺留分」を侵害された場合の制度について、法改正された点も含めてご紹介いたします。

1.旧法上の制度の問題点

遺留分を侵害された場合、旧法上は、遺留分減殺請求により「物権的効果」が生ずることとされていました。そのため、①遺留分減殺請求権の行使によって受遺者等と遺留分権利者との共有状態が生じ、事業承継の支障となっているという指摘がありました。

 

また、②遺留分減殺請求権の行使によって生じる共有割合は、目的財産の評価額等を基準に決まるため、通常は、分母・分子とも極めて大きな数字となり、持分権の処分に支障が出るおそれがありました。

 

例えば、経営者であった被相続人が、特定の相続人に家業を継がせるため、土地や株式などの事業用の財産をその者に遺贈等するなどしても、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使によって、株式や事業用財産が共有となる結果、これらの財産の処分が困難になるなど事業承継後の会社経営の支障になる場合があるとの指摘がされていました。

2.新制度のポイント

2019年7月1日施行された改正相続法によって

① 遺留分侵害額請求権(改正前は「遺留分減殺請求権」)から生ずる権利が金銭債権化されました。

② 金銭を直ちに準備できない受遺者又は受贈者の利益を図るため、受遺者等の請求により、裁判所が、金銭債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができるようになりました。

 

3.新制度導入のメリット

① 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるとされ(法第1046条第1項)、これまで遺留分の権利行使をすることによって当然に物権的効果が生じ、遺留分を侵害する遺贈又は贈与等の全部又は一部が無効になるものとされていたものが、この規律を見直し、遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生することとされました。その結果、共有関係が当然に生ずることを回避することができるようになりました。

 

② 遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重することができるようになりました。

 

③ 遺留分侵害額請求を受けた受遺者又は受贈者が直ちに金銭の準備をすることができない場合は、裁判所に請求することにより、金銭債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができることになりました(法第1047条5項)。

4.具体例

 

A様のお父様は、評価額4,000万円の自宅の土地・建物と預貯金1,000万円を遺して亡くなりました。債務はありませんでした。相続人はお子様二人で、A様とお兄様のB様です。

 

お父様は遺言書を遺されており、その内容は、お兄様であるB様に自宅の土地・建物(評価額4,000万円)、A様に預貯金(1,000万円)を相続させるというものでした。

 

A様の遺留分を見てみましょう。

まず、法定相続割合は2分の1、また相続財産総額が5,000万円なので、法定相続分は2,500万円です。

A様のように亡くなられた方の子である場合、遺留分は法定相続分の半分ですので、A様の遺留分は1,250万円となります。

 

よって、遺言書通りの相続が為された場合の遺留分侵害額は、

「遺留分1,250万円」から「遺言による相続額1,000万円」を控除した250万円

となります。

令和1年(2019年)7月1日以降に相続が発生した場合、こちらの遺留分侵害額250万円について、A様はB様に金銭を請求することができるようになりました。一方で、令和1年7月1日以降に開始した相続について、従前の「遺留分減殺」を登記原因とする所有権移転の登記申請は受理することができないことになりました。

 

5.おわりに

相続開始後に、相続人間などで遺留分侵害額請求が為される場合、請求する側にも、請求される側にも、多大な労力が必要となります。

 遺留分についての争いごとを避けるために生前にできることとして、「一部の相続人に遺留分放棄をしてもらう方法」や「遺留分を侵害しない内容の遺言を作成する方法」、また「遺言の内容について付言事項で相続人に説明しておく方法」、などの対策があります。

お困りごとがございましたら、お気軽に弊所にご相談くださいませ。

 

※こちらのコラムは以前掲載したコラムの改訂版となります。

 

 

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