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家督相続とは ~昔の相続制度を振り返る~

家督相続とは ~昔の相続制度を振り返る~

当コラムでは、相続に関する昨今の法改正に伴う新制度を
いくつかご紹介してきましたが、今回は少しテイストを変え、
昔の相続制度について触れてみようと思います。

みなさんは「家督相続」という言葉を聞いたことはありますか?

小説やドラマなどで耳にされたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「意味はよくわからないけど、昔の法律?」
「今はもう使われていないんでしょう?」

今回は「家督相続」を中心に、過去の相続制度についてご紹介いたします。

 

1.家督相続とは

家督相続は、「家」の制度を前提とする旧民法において、
一家の「戸主」の地位を承継する相続のことをいいます。

 

遺産相続の方法で、「戸主」が死亡したり隠居した際に、
主に長男を一家の新しい戸主として財産の単独承継者とみなすと同時に、
新戸主に対して家族の扶養義務等を定めた、戦後間もなくまで続いた古い制度でした。

 

「戸主」はその「家」を統率する存在として、
多くの権利と義務(戸主権)を与えられていました。

【戸主の主な権利・義務】

◆家族の婚姻・養子縁組に関する同意権
◆家族の居所指定権
◆家族の入籍を拒否する権利
◆家族を「家」から排除する権利
◆家族に対する扶養義務
◆「家」を維持・存続させる義務


戸主は一家の財産をすべて引き継いだうえで、
上記のように一家のなかで絶大な権限を有している存在でした。

家督相続とは、単なる財産の承継にとどまらず、戸主権を含めた身分の相続となるのです。

2.家督相続の順位(誰が家督相続をするの?)

そんな家督相続ですが、いったい誰がその地位を承継していたのでしょうか。

上記のように、財産だけでなく身分を承継する制度ですので、
家督相続は一人(単独相続)に限られるという事が大きな特徴となります。

その上で、家督相続人の順位は以下のように定められていました。

 

①法定推定家督相続人(旧民法970~974条)

被相続人の直系卑属(被相続人を戸主とする戸籍に記載されている、戸主の子・孫等)

 

直系卑属が複数いる場合は以下の通り
・被相続人と親等の近いもの(子が孫より優先)
・親等が同じ場合は男子が優先(姉よりも長男である弟が優先)
・親等と性別が同じ場合は嫡子が優先
・上記の条件が同じ場合は年長者が優先

②指定家督相続人(旧民法979条1項)

①の法定家督相続人がいない場合、被相続人が生前または遺言で指定された者

③第一種選定家督相続人(旧民法982条)

①・②の家督相続人がいない場合、配偶者・兄弟姉妹・甥姪の中から、
被相続人の父母または親族会によって選定された者

④第二種法定家督相続人(旧民法984条)

①・②・③の家督相続人がいない場合、被相続人の直系尊属
複数の直系尊属がいる場合、親等の近い者、次いで男が優先する

⑤第二種選定家督相続人(旧民法985条)

①・②・③・④の家督相続人がいない場合、親族会が親族、
家族または他人の中から選定された者

・まず、被相続人の親族、家族、分家の戸主または本家もしくは
分家の家族の中から選定される

・上記の中から家督相続人となるべき者がない場合、
 はじめて他人のなかから選定できる


かなり細かく規定されていますが、
子供の中に男子がいれば、原則として長男が家督相続人として
全権利・義務・財産を承継することになっていたのです。

3.家督相続の開始原因(何があったら家督相続が発生するの?)

現在の民法では相続の開始は「被相続人が死亡した時」に限定されていますが、
旧民法の家督相続においては以下の事由によって相続発生となります。

①戸主の死亡

②戸主の隠居

戸主は、一定の要件を満たせば隠居して戸主の地位を退くことができた。
隠居は戸籍上の届出によって成立し、従前の戸主は戸主権を喪失し、
家督相続人が戸主となる

③国籍喪失

戸主が日本国籍を喪失したときは、
当然に日本の「家」から除かれ家督相続が開始する

④去家

戸主が婚姻または養子縁組の取り消しによってその「家」を去った場合、
家督相続が発生する

⑤女性戸主の入夫(入婿)婚姻

女性戸主の入夫婚姻の場合、婚姻届に入夫が戸主となる旨を記載して届け出ると、
女性戸主が戸主権を喪失し入夫が戸主となる

⑥入夫離婚

入夫が離婚すればその家を去ることになるので、当然に家督相続が発生する
このように、家督相続は死亡相続のみならず生前相続も存在することになります。

 

4.家督相続の時期(いつまで適用されていたの?)

1947年(昭和22年)5月2日をもって家督相続制度は廃止されました。
戦後、日本国憲法の制定に伴う法の下の平等や基本的人権の尊重の理念に
従来の「家」制度がそぐわなくなり、相続法も改正される運びとなったのです。

 

一方で、現在の相続登記においても家督相続制度が適用される場合が
あることには注意が必要です。

 

相続は、相続開始時の法律を適用するという決まりがあります。

従って、家督相続制度の廃止(1947年5月2日)前に
死亡した戸主名義の不動産がある場合、家督相続制度を適用して
相続登記をする必要があるのです。

 

何世代も相続登記が放置されている不動産については、
相続派生のタイミングに注意しましょう。

 

5.家督相続廃止後の相続制度

【明治31年7月16日~昭和22年5月2日】

旧法による家督相続制度

【昭和22年5月3日~昭和22年12月31日】

応急措置法による相続制度
第1順位 配偶者(1/3)+直系卑属(2/3) 
 ※非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1
第2順位 配偶者(1/2)+直系尊属(1/2)
第3順位 配偶者(2/3)+兄弟姉妹(1/3) 
 ※代襲相続なし
 ※父母の一方を同じくする兄弟姉妹と父母の双方を
  同じくする兄弟姉妹の相続分は同じ

【昭和23年1月1日~昭和55年12月31日】

現行民法による旧相続分
第1順位 配偶者(1/3)+直系卑属(2/3) 
 ※非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1
第2順位 配偶者(1/2)+直系尊属(1/2)
第3順位 配偶者(2/3)+兄弟姉妹(1/3) 
 ※代襲相続あり(制限なし)
 ※父母の一方を同じくする兄弟姉妹の相続分は父母の双方を
  同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1

【昭和56年1月1日以降】

現行民法による新相続分
第1順位 配偶者(1/2)+直系卑属(1/2) 
 ※非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1
  →平成25年9月5日以降に開始した相続については、
  嫡出子と非嫡出子の相続分は同等
  平成13年7月1日以降に開始した相続については、
  遺産分割が終了していない相続に関しては
  嫡出子と非嫡出子の相続分は同等
第2順位 配偶者(2/3)+直系尊属(1/3)
第3順位 配偶者(3/4)+兄弟姉妹(1/4) 
 ※代襲相続あり(1世代のみ)
 ※父母の一方を同じくする兄弟姉妹の相続分は父母の双方を
  同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1

6.さいごに

さて、今回は戦後間もなくまで用いられていた家督相続制度について
お話しさせていただきました。

 

日本の近代化に伴い、従来の「家」制度の衰退に合わせ
廃止された経緯はなかなかに興味深いものでした。

 

一方で、半世紀以上前に廃止されたとはいえ、
状況によっては現在の相続登記においても家督相続が登場する
可能性があることには注意しなければなりませんね。

 

さて、相続登記義務化も2024年4月からと迫ってきました。
ご実家の不動産など、手続きはお済みでしょうか?

 

リーガル・フェイスでは、新制度はもちろん、家督相続のような旧法も
しっかり把握して皆様のお力添えをいたします。

 

初回無料相談も行っておりますので、
相続手続きなどお気軽にお問い合わせください。

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